「釜山ビエンナーレ2014特別展アジアン・キュレトリアル」報告
花田伸一(キュレーター)

Gate 05 Busan

2017.01.28 @OTIANO

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釜山ビエンナーレ2014に参加した時、私は3つの作品をコーディネートしました。後で一つ一つ話しますけど、和田千秋さん、中村海坂さん、坂崎隆一さんの3人の芸術家による「障碍の茶室」という作品、ヤンキーたちがつくったバイク、メチュクジ村という釜山にある村のおばあちゃんたちが作った紙人形、この3つを展示しました。

まず会場から。釜山はかなり広くて、ほぼ中央部に会場があったんですけど、釜山唯一のコストコの隣で、この工場の跡地が会場でした。

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キスワイヤ水営工場

これは下見に行っているところです。
韓国、シンガポール、中国のキュレーターと私の4人でここを使うことになりました。元々ワイヤー工場だった場所が会場になりました。半分は現役で、半分は使っていないスペースだったんですね。それともう一ヶ所、ここも会場として使うんだったら使っていいよという提案をされたのが、釜山市民公園というこの年整備されたばかり、オープンしたばかりの公園があって、文化村みたいなスペースがあって、こういうアトリエがたくさん建っていて。ここはメタルアーティストの工房、これは木工ですね。色んなメディアの工房があるんですね。それで、まだこの部屋だけはアーティストが入ってなくて、空きスペースだから展示に使っていいよと言われたんですけど、いまいち触手が動かなかった。そのすぐ目の前にヒストリーミュージアムがありました。

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釜山市民歴史館

この公園がどんな場所だったのかということを説明する博物館です。元々日本が統治していた時代には競馬場で、釜山競馬というのがあったんだそうです。これが戦前、戦時中に日本軍が抑えていた場所で、第二次世界大戦が終わった後アメリカ軍の基地になりました。ハリヤーという米軍基地があった。これはアメリカ兵士たちが作った旗ですね、ヤンキーテイスト満載です。

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釜山市民歴史館展示より

この博物館を見終わった最後にこの休憩スペースがあって、ここで何かが展示できたらと思って向こうの学芸員さんに相談しているところです。結果的にはここは使わなかった、というか使えなかった。

一つ一つの作品に行きます。まず、釜山と福岡を結びつけるような何かキーワードがないかなと考えまして、やはり茶道の歴史はどうか、秀吉が朝鮮出兵をして現地の陶工たちをたくさん福岡に連れてきて、福岡に窯元がたくさんできてという、焼き物あるいはお茶文化の歴史を辿れるような展示をしたいと。ちょうど和田千秋さんが「障碍の茶室」というプロジェクトを前からされていたので、これを釜山に持っていきたいと思ってお願いしたものです。会場はこのように入り口から入って、車椅子から見やすい高さでパネルを展示しまして、

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和田千秋+中村海坂+坂崎隆一《障碍の茶室V-無碍》入口

お茶室でいうとこのアプローチをつくりました。狭い道を通って奥までいって「無碍」、これは禅の言葉で和田千秋さんがテーマにしているものです。入っていってこういう状態でお茶会が行われているという展示です。

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和田千秋+中村海坂+坂崎隆一《障碍の茶室V-無碍》

初日だけアーティストを連れて行ってお茶会をしたんですけれど、会期中は現地の茶道サークルの人にお願いをして、週末だけ茶会を開いてもらいました。なんでも話を聞くと韓国では茶道が一旦歴史的に途絶えているらしんですね。現在は日本の茶道をお手本にしながら、いわば逆輸入して釜山の人もお茶のお点前を勉強しているということで、そういうサークルの人に来てもらってお茶会をしました。左から中村海坂さん、茶人ですね、真ん中が和田千秋さん、この作品を考案したアーティスト、右が坂崎隆一さん、このお茶室のしつらえなどを手掛けるアーティストです。

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左より中村、和田、坂崎

お茶会をやっていない時はスライドショーをモニタに映して観てもらいました。

次がヤンキーバイクですけど、きっかけはこの釜山ビエンナーレの半年前ぐらいですかね、福山市の柄の津ミュージアムというところで開催された『ヤンキー人類学』という展示に大変衝撃を受けまして、しばらくヤンキー文化をあれこれ調べていたんです。自分自身が中学校の時に非常にヤンキーに恵まれた環境で育ちましたので(笑)、他人事とは思えない。(『ヤンキー人類学』展では)こういう作品が展示してあって、なんと福岡県の筑後のヤンキーが作ったバイクだという説明だったんですね。それで会いに行きました。筑後のクレイジーオートというバイク屋さんをオープンさせたばかりの、この人がバイクの作者ですね。今はまっとうなビジネスマンですけど、昔は色々とヤンキー活動に勤しんであって、彼にバイクを展示させてくれと頼んだんですね。それから日通さんに相談してみると、バイクを海外に輸出しようとしたら廃車しないといけないんですね。ナンバープレートを取って廃車扱い。でも彼らにとっては普段乗るバイクですからさすがに廃車するわけにはいかず、現地で再制作、同じものを現地で作ってもらおうというので、釜山でヤンキーを探してもらって筑後に派遣してもらう、それが右の人で彫刻を勉強しているアーティスト、聞いたらヤンキーじゃなくて真面目な人間でしたって言ってましたけどね。

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ちっご共道組合《CRAZY SPECIAL》下見

左側は謎のフランス人。ルーブル美術館の監視員もやっていたことがあるという、謎のフランス人がなぜか当時九州芸文館で展示の監視員をやっていて(当時、花田は九州芸文館[筑後市]の企画展も手掛けていた)、彼はフランス語、日本語、英語、韓国語ペラペラなんですよ。彼にヤンキーカルチャーを通訳してもらったんですね。下見に来てもらい、バイクのパーツ全部サイズを測って、それを釜山で再現してもらって。これ現地の中古バイクでちゃんとヤマハの同じ型のものを調達してくれて搬入しました。展示会場で初めてバイクをふかしましたね。搬入して、ここで組み立てて、完成。

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ちっご共道組合+アン・シヒュン《CRAZY SPECIAL》釜山ビエンナーレ2014特別展会場

これが会場の様子ですけど、誰も読めないのに一応(キャプションに手書きで「夜露死苦!!」と)書いてきました。それから福岡の千代にヴァルトというギャラリーがありますけれど、そこで釜山ビエンナーレと時期を合わせて、ヤンキーバイクを展示させてもらいました。

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ちっご共道組合《CRAZY SPECIAL》WALD ART STUDIO

これは本物の筑後のヤンキーが作ったぶち上げバイクです。搬入には僕のPTA仲間の元ヤンキーに手伝いに来てもらいまして、組み立ててもらいました。なぜヴァルトだったかというと、ヴァルトのあるエリアというのはわりと在日の方がたくさんいるエリアなんですね。そういうことで展示してもらいました。ちなみにヤンキーバイクを展示して面白かったのは、ヤンキーがめちゃめちゃクリティカルにこういう展示を批評してくれるんですね。これはぶち上げバイクとしてクオリティがまだまだだと、こんなものではだめだ、俺達のほうがもっといいバイクを作るからそれを展示しろとか言って。これ、飾り物、置き物と勘違いされないように、反社会的な迷惑なものなんですよということをお客さんに伝えるために、大音量でエンジンをふかす音をギャラリー内でブワーってかけていたんですよ。コール音っていうんですけどね、バンバカバンバカっていうやつをかけていたら、花田さんそんなんだめよ、このコール音は切れが悪い、もっとリズミカルにやらなって。美術展でお客さんから批判を受けることってあまりないんですけど、ヤンキーがめちゃめちゃ普通にクリティカルで、リアクションを色々もらって楽しかったです。

最後にハルモニ・アート・カフェという作品。ハルモニはおばあさんという韓国語です。そのアートカフェをやりました。なぜか準備の段階でリサーチにいった時に、メチュクジ村という村を案内されたんですね。

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メチュクジ村

どういう意図があったのかよくわかりませんけれど。私の目には普通の古い町並みだという風にしかみえないんですが、日本統治時代につくった埋立地らしいんですよね。結構スラム街があって、戦後はあちこちから戻ってくる人たちの仮住まいが密集していた場所です。その頃のアナーキーな感じが今でも色濃く残っていて、一緒に行っていたビエンナーレのスタッフが、この村を訪ねてものすごくショックを受けていたんですね。こんな古い町並みが釜山に残っていたなんて信じられないと。それは本当に涙がでるぐらいショッキングだったらしくて。私は何もわからないんですけどね、何かあるんだろうということがわかった。映画のロケとかでも使われてたみたいですね。『チング』という日本でも公開された映画のロケ地になった場所です。右側がビエンナーレのスタッフ、左側がメチュクジ村のおばあちゃんの代表みたいな人。このおばあちゃんに案内してもらって、公民館みたいなところに行きました。そこの村に住んでいる高齢者の人たちは文字の読み書きを習っていないので、こうやって勉強会を開いたり、いろんな文化講座を受けたりしているんです。これは、地元の交番のおまわりさんが文字の読み書きを教えているところ。

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メチュクジ村ライブラリー

水彩画を習ったり、街角のスナップ写真をみんなで撮ったり。文化センターみたいになっていました。その中で紙人形も作っていたりして、これが非常にラブリーだなあと。

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メチュクジ村のハルモニによる紙人形

講師の人によると、これは自分自身の生い立ちを伝えるためにつくった人形なんだそうです。自分がどういういきさつでこの村にたどり着いてどういう暮らしをしてきたかっていうのを、人形を作って、それを写真絵本にまとめているんですね。これをぜひ展示したいと思いました。これは月一ぐらいで無料の食事会を開いていて、その準備をしているところです。食事会をこのカフェで開く。コミュニティカフェですね。おばあちゃんたちが井戸端会議してるんですけど、写真撮ろうとしたら「恥じゅかしい〜」とか言って、韓国語だからなんて言ってるかわからないけど。彼らは裁縫とかも全部自分たちで普段やりますから、あまった端切れとかでこういうクッションのオブジェを作ったりしています。このカフェの雰囲気がものすごくピースフルでいいなと思ったので、これをぜひ釜山ビエンナーレで紹介したいと。僕はよくわからないけどメチュクジ村というのは釜山市民のハートに響く何かがあるんだろうと思ってやってみました。さっきの公園の使っていなかったスペースに展示をさせてもらい、最初はこういう状態(展示物の少ない状態)で展示をスタートしました。この展示はストーリーを伝えることが大事なので、監視員のアルバイトにもきちんと色んな説明をして、お客さんに伝えてもらうように。君たちもちゃんとメチュクジ村を自分の目で見てきなさいよって言って頼んでいるところです。会期中週末にはワークショップをやってもらっています。メチュクジ村からおばあちゃんにもローテーションで来ていただいて、さっきの端切れクッションを作るワークショップをやってもらいました。

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チュクジ村のハルモニ達《ハルモニ・アート・カフェ ― マージナル・アート・センター》

これが会期中少しずつ増えていきます。地元の美術大学の学生に、この部屋の中で起こっている出来事やメチュクジ村のインフォメーションを伝える掲示板をガラス窓に書いていってくださいということで頼んでいるところです。ガラス窓がインフォメーションボードになっています。以上です。

質疑応答

Q:ヤンキーのバイクは公道を走れる?
花田:走ったらすぐ捕まります。

Q:走ったことがある?
花田:あります。僕はないですよ(笑)。すぐ没収されるから、彼らは全然そのパーツに執着しない。消耗品みたいな感じ。パクられたらまた作ればいいという意識ですかね。

Q:作品は釜山でどういう反響だったんですか?
花田:そこがね・・・ヤンキーが反社会的なカルチャーだっていうのが全然伝わらなくて。だからすごい器用な若者たちがバイクをきれいに飾ってるねと。だから多分タイのトゥクトゥク(東南アジア・南アジア各国に見られる三輪タクシー。多くは目立つ装飾が施される)みたいな感じで見えたんじゃないかな。

Q:爆音をそこでは流さなかった?
花田:周りに展示があるからちょっとそこはさすがに控えました。

Q:ぶち上げバイクのトゲトゲの素材は何でできてるんですか?
花田:ベニヤとFRPです。大川家具の職人だからクオリティめちゃくちゃ高いんですよ。木材加工もFRPも。それもあって多分消耗品扱いなんでしょうね。すぐできちゃうから。

テープ起こし 宮崎由子

スピーカープロフィール

花田伸一(キュレーター/佐賀大学芸術地域デザイン学部准教授)
1972年福岡市生/佐賀市在住。北九州市立美術館学芸員、フリーランスを経て2016年より現職。2009年国際交流基金タイ、ラオス、カンボジア調査員。2009年チェンマイ滞在調査。2011年釜山滞在調査。2012年「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014」に係るタイ、ラオス、カンボジア、ベトナム調査。2014年「釜山ビエンナーレ2014特別展アジアン・キュレトリアル」キュレーター。国内での主な企画「6th北九州ビエンナーレ~ことのはじまり」「千草ホテル中庭PROJECT」「ながさきアートの苗プロジェクト2010in伊王島」「街じゅうアートin北九州2012 ART FOR SHARE」「ちくごアートファーム計画」。

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