キュレーター

ルアンルパの活動について
レオナルド・バルトロメス/Leonhard Bartolomeus(キュレーター)

Gate 08 Jakarta

2018.03.17 @art space tetra

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はじめに

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みなさんこんにちは。私はバルトです。
今日はインドネシアのジャカルタで友人たちと一緒にやっているコレクティブ「ルアンルパ」についてお話したいと思います。ここに書いてある言葉は私たちがよく使うものです。「失敗することは許されている」というようなことですけれども、「失敗するためにやる」そういうことを念頭に置いて、いろんな活動をしています。

ルアンルパの活動について

最初にビデオをご覧ください。2000年~15年にかけてのルアンルパの活動をダイジェストで紹介しています。まず見てもらえると、どういうことをしているのか掴んでもらえると思います。
いま見てもらった映像が2015年までのおもな活動です。他にも色々とあるのですが全部を入れ込むことができませんでした。ルアンルパの概要ですが、ルアンルパは現代美術の非営利組織で、最初6人のメンバーで始めました。ジャカルタという都市の文脈を踏まえて、そこで現代美術に何が求められるのか、何ができるかをテーマに活動をしています。ルアンルパのマークはバーコードっぽくしています。なぜかというと、ジャカルタという街が商業ベースで成立しているからです。今見てもらったプロジェクトの詳細は後ほど話しますが、全ての根底にあるのは「集団性」で、それが方法論であるとか、プロジェクトの内容に繋がっていきます。ルアンルパを一言で説明すること、定義づけることは自分たちでも非常に難しいですけれども、いろんな人たちが自発的にいろんなことをやっています。

これは2010年の10周年記念写真です。どうやってルアンルパのメンバーになるかというと、非常にあいまいで、これを満たすとメンバーになれるというルールがあるわけでないのです。今ジャカルタは非常にカオスな場所で、そこでいろんなプロジェクトをしていく中でこういう考え方に基づきながら中身を組み立てています。小さなストーリーを観察し、アイデアや空間を拡張していって、その地域の政治的な状況とか空間が持っている政治性とか社会の中の様々な仕組みを分析し、その中から自分たちの周りにある現代の文化の価値といったものを見つけだしていく、そのような活動です。

活動で大事にしていること

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これは1998年にジャカルタで起こった大規模なデモの様子です。当時東南アジア一帯を経済危機が襲っていって、その流れでジャカルタでも暴動やデモが起こりました。この時代の出来事というのは私たちにとっては大変重要で、この後スハルト元大統領が失脚し、どんどん社会が民主化の方向に動いていきました。そういう中で様々なアーティスト主体の動きやグループでの活動が増えていきます。
ルアンルパの活動で大切にしていること。集団での活動は常に中でヒエラルキー的境界線ができますが、そういったものを崩していくことです。ルアンルパの中でもディレクターという肩書の人がいたり、マネージャーがいたりしますが、実際の現場では全員がみな同じ立場で関わる体制をとっています。
ルアンルパは皆が同じツール、同じ技術を手にして、そこで周りの人たちは何が必要かとか自分の役割は何かとか考えながら仕事をしていくことによって、自分自身のことを振り返り、グループの中での自分の立ち位置を作っていくのです。

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これが私たちの事務所です。自分たちの方法で整理整頓しているのですが、日本とは比べ物にならないですね。国際交流基金のジャカルタ事務所と密接なかかわりがあるのですが、そこで働いている日本人が私たちのオフィスに来るのですけれども、いつもどういう状況なのか聞いていきます。最近の課題は組織の持続性についてで、私たちは自律的な組織なのでそれをどう維持していくのかは常に問題となります。その方向として大きくしていくのか小さくしていくのか、組織を繋げていくのか分けていくのか、あるいは母体自体を小さくしていくのかが最近の課題です。
ルアンルパは2008年くらいに一度組織を分割した時期があり、そしてまた2015年に編成が変わっています。少しずつ独立性や自治制を強めながらやっています。

派生したグループ

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これがルアンルパから派生したいろいろなグループになります。ちょっと多すぎますね。
OKビデオというのは国際的な映像フェスティバルで、最初のビデオにも出てきました。運営しているギャラリーもあります。「Jakarta32℃」というのは学生のためのビエンナーレで、学生時代はなかなかギャラリーや美術館で大規模な展示ができないので、学生だけの展覧会を企画しています。研究機関もあればブログをやっているところもあり、子ども向けのプログラムをやっているところもあり、ラジオ局も持っています。時にはどこで止めるかを考えないと永遠に増え続けることになります。

2016年以降の活動

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2016年に巨大な倉庫に場所を移すことになりました。「グダンサリナ」といい、「グダン」というのが倉庫、「サリナ」というのがこの倉庫を使っていたジャカルタの大きなスーパーマーケットの名称です。この一つ一つがだいたい3000㎡あります。それまでは音楽イベントをやったり展覧会をやったりそれぞれイベントを開催してきましたが、大きな場所に移ったことで、考え方を根本から変えていかなければなりません。

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Reinaart Vanhoe
“Also-Space, From Hot to Something Else: How Indonesian Art Initiatives Have Reinvented Networking”


これが自分たちの立場を説明するときに使っている図なのですが、自分たちはコンテンツやプログラムを提供する人たちであり、資本主義の中でそれを行うことを恥じない。どこからかお金をもらって、そこに乗っかってある程度やっています。

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これはグダンサリナの中で大きなマーケットをやっていて、地域を巻き込んでいろんな人がここに来て物を売ったり買ったりするプラットフォームを作りました。

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グダンサリナの中でどういった組織が関わりながら活動をしているかですが、大きく5つの団体が入っていて、ルアンルパから派生したグループですが、それぞれが異なる役割を担っています。ただ、最近ここを出ることを決めました。維持するのに経費がかかりすぎるので。次に新しい方向へいくにしても常に集団であるということの意味を考えながら作っていきたいと思います。南半球で活動するいろんなコレクティブを繋げる大きなコレクティブを作ろうという動きが出てきて、それに25の組織が参加しています。

今後の展望

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インドネシアにこういう言葉があります。「nongkrong」。だらだらしたり、みんなでお酒飲んでしゃべったり、そういう集まりや時間を指すのですが、そういうものを大事にしながら集団で何かをやるということを続けていきたいと思います。
グダンサリナで失敗した後、そういった「nongkrong」に基づきながらやってきた新しいプロジェクトが「Good School」。これは学校みたいなもので、ここで教えるのはどうやって集団での活動を作っていくかその方法そのもので、何か理論を教えるというよりも、いろんな場所に出かけていって、集団で何かを起こしていくグループを作っていく活動です。これは経験に基づく学習の仕方といえます。集団で何かをするときに、どういうことが起こるかを集団で学んでいく内容になっています。集団で続けていくと、時には対立することもあるだろうし、分裂したりすることも起こりうるのですが、そういうことも含めて経験しながら学んでいく場です。

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それが最終的にどういう風になるにしろ、この「アートより友達」を大事にしていきたいと思っています。

質疑応答

Q:「Jakarta32℃」という展覧会がありましたが、「32℃」の意味は?

バルト:最初にイベントが立ち上がった時のジャカルタの気温が32℃だったので。最近は34℃ありますが。ジャカルタのアーティストはだいたいストリートで活動している人が多いので、32℃というのはアーティストが制作をしているときの気温という意味もあります。

Q:映像でロックが流れていましたが、「サンシャワー展」でもインドネシアの作家ロックミュージックを作品に使っていました。インドネシアではアートと同じくらいロックは重要と思われていますか。

バルト:なぜ音楽かというと、基本的に展覧会を開催してもあまり人が来ません。だからオープニングなどにロックバンドに演奏してもらったり、DJに来てもらったりしています。人を呼び寄せるという役割で音楽を捉えています。あと、そもそも音楽をやっている人は同じ美大を出ている人が多くすぐに声掛けでき、繋がっているのでアートとセットで組むことが簡単です。
 あともう一つ音楽のことですが、「アートパシフィックトリエンナーレ」というオーストラリアの展覧会に参加した時に、1960年代、インドネシア共産主義時代にパンクバンドがあったという虚構の物語を制作しました。このパンクバンドを通して、当時の社会状況を語るという手法を使いました。パンクバンドは実際にあるパンクバンドを使ったのですが、その人たちは勿論最近活動している人たちなので演じてもらいました。作品を見て、実際に60年代にこのバンドがいたのだと受け止めた人もいたようです。

通訳 岩本史緒

テープ起こし 原田真紀

スピーカープロフィール

レオナルド・バルトロメス/Leonhard Bartolomeus(キュレーター)
レオナルド・バルトロメス(1987年生まれ)は、インディペンデント・キュレーター、研究者、そして情熱的な教育者でもある。2012年にジャカルタ・アート・インスティチュートを卒業。同年、ジャカルタに拠点を置くアーティスト・コレクティブ、ルアンルパのワークショップに参加し、後にメンバーとなる。2013年に最初の著作を出版。2014年に国際交流基金の助成を受け、広島市現代美術館にてインターン。2015年から2017年にかけてRURUギャラリーのキュレーター/ディレクターを務める。ルアンルパでの活動に加え、ジャカルタ・アーツ・カウンシル、NGOや美術学校との研究・展示プロジェクト多数。近年、東南アジアの植民地時代に描かれた風景画についての研究を行っている。
http://ruangrupa.org/15/